The best thing is to lose your cool in public
“普段いる世界とは違う世界を、音から感じてもらえたら嬉しいですね。 ” サウンド・プロデューサー/DJの中田ヤスタカと、ヴォーカルこしじまとしこによるユニットcapsuleが、約1年ぶりにニュー・アルバム『WORLD OF FANTASY』をリリース。さらに進化した新しいcapsuleを、スケール感をもって伝える今作について、Perfumeのプロデュースやカイリー・ミノーグのへのリミックス提供など、多忙を極める中田に話を訊いた。
――新作、完成してみていかがですか?
中田ヤスタカ(中田): 今回も、疲れました(笑)。capsuleの音作りは本当に大変です。なぜなら、capsuleの音楽は自分が良いと思えるものでないといけないから。今の自分が好きな音、聴きたい音を作るのがcapsule。人に依頼されて作るのではなく、好きでやっているという当たり前の音楽の姿の純度を高めていくのがcapsule。でもそれが一番難しい、自分自身を感動させるものでないといけないわけだから。それもひっくるめて“楽しい”ことには違いないけれど。制作中は興奮と冷静がまざっているような、“ピリピリしながら、すごく気持ちいい”独特の感覚。そうこうして今の自分を出し切って作るので、出来上がると“こんないいアルバム、もう二度と作れない”と思うんですけど。でもそれも一瞬だけで、毎回すぐに、“次はもっといいのが作れそう”と思うんですけど。
――今作『WORLD OF FANTASY』は、どんなアルバムですか?
中田: 今回は、capsuleらしさ、capsuleじゃないとできない音作りが、今まで以上に実現された仕上がりになっていると思います。これまではcapsuleとして、なるべく多くの人に聴いてもらえるような機会を作ろうとしていた。でもそうすると、capsuleで作る“今、一番作りたい音楽”からは少しずれてしまうんですよ。アルバム制作でも、その曲だけが制作時期がずれてしまうので。今作はcapsuleとして先行タイアップ曲をやらなかった分、アルバムのことだけを考えて制作に没頭できました。“今のcapsuleの音楽”という意味では、極限まで純度が高まっていた、まとまりのある10曲になっていると思います。また、これまで以上にオーディオ的なものが基点になっています。意識しているのは“スピーカーからいかにいい音が流れているか”で、できた音楽は、携帯電話やパソコンのスピーカーで聴くだけで満足できるものとは違うかも知れませんが、逆にちょっと良いスピーカーやヘッドフォンで聴いてもらうことで、楽しみが増える音楽。なぜなら、capsuleはアルバムごとに変化のふり幅が大きいから。毎回変わる“音”そのものを楽しんでほしいし、楽しめるもの。
――こしじまさんのレコーディングはどうでしたか?
中田: こしじまさんとの関係が、今回は目指していたバランスにかなり近づけた気がしています。capsuleみたいなユニットだと、僕は“音担当”で、今までは結果的に、こしじまさんを全面に出した曲とそうじゃない曲に分かれていました。でも今回は、僕と彼女とのツイン・ヴォーカル的な音作りができたんですよね。基本的には全曲、こしじまさんが常にいるけれど、音だけのフレーズとこしじまさんの声が繰り返されていたり、僕の音がヴォーカルのように彼女の声と今まで以上に共鳴していたり。全編通して、音と声でツイン・ヴォーカル的な曲ができた。これ、実はcapsuleでずっとやりたくて、でもできなくて悶々としていたこと。それが今作でやっと形になりました。ちなみに、こじしまさんはすごい人です。こんな僕と10年間、活動しているわけですから(笑)。教授と助手、映画監督とお気に入りの女優、みたいな関係をもはや超えてきているかもしれません。
――制作過程で、何かインスピレーションとなったものはありますか?
中田: 創作のモチベーションや方向性に、今、自分がいる場所はかなり影響しています。僕が住んでいる日本の、東京という街で得ているものは必ず反映されている。場所の質感とか情緒とか。渋谷や原宿の変化のスピード、自分が求めていなくても周りが変化を起こすような状況は、capsuleの変化ともリンクしていると思いますし。これがリゾートの別荘で音作りしていたら、今のcapsuleみたいな音を作ろうとは思わないと思うんですよね。日本の1年って、かなりドラマチックじゃないですか。四季折々の表情があって、カラっと明るい晴天もあれば、梅雨や台風みたいな悪天候もある。その天候の悪さ、つまりは憂いや切なさも、音作りに必ず入っています。僕の音作りは、四季や天気をコントロールっするのに近いかもしれない。アルバムの中で、朝や昼や夜、晴天や雨天、四季折々の表情、空間の広さや狭さ、光を表現している。大きく言えば、環境を表現しているというのかな。今作にもそういう要素はかなりあります。ある意味、今とは違う場所に飛んで行くためのアトラクションのようなアルバムになっているのかもしれません。車の中で聴くと、“このまま離陸したい”と思ってもらえるような、普段いる世界とは違う世界を、音から感じてもらえたら嬉しいですね。